■プレストーリー
OPSの新米ハンター、 アインは師であるリゼイルと共に吸血鬼がいると目されるとある廃村へ潜入した。
そこはかつて、吸血鬼のコロニーとして機能していたとされるコード593、南米地区第三無名都市。
今なお空にぶらさがる、巨大な軌道エレベータの基底部が遺された赤道直下の忘れ去られた廃村。

街の各所はバリケードで分断され、人の気配すらない家々は荒れ、
朽ち果てている。
状況は簡単な調査のみと思われた。
が、村の広場まで出たときにその男を見て、師の顔色が変わる──
最初に聞こえたのは微かなざわめきだった。
「しッ」
行く手をふさぐように立つ大きな廃屋を迂回しかけたところで、師が左の人差し指を立て右手でアインを制した。
なにかいる。
熱量の感じられない独特の、だが大勢の気配がする。
一瞬目を見交わし、2人は気配を抑えて身を隠す。
「喰屍鬼[グール]……ですかね?」
「待て、今確認する」
障害物を利用し、角度に気を配りつつ向こうを覗き見る。
途端に師が深く大きく喘いだ。瞳が大きく見開かれ、その動きが止まる。
「!? ……クリス!!」
小さく、呟いたのが聞こえた。
「クリス……?」
興味を惹かれ、アインは自分でも覗いてみる。
建物の角を曲がった先20メータ程進んだところに、大きな広場がひらけていた。
広場には大勢の喰屍鬼[グール]が──“父”に仕えることで存在を永らえる、夜の従者たちが──たむろしている。
全部で3、40人はいるだろうか。
一口に喰屍鬼[グール]とはいえ状態は様々だ。
眼窩が冥[くら]く濁り、肉は黒く腐り果てたおぞましい外見の者もいればその一方で、見た目は人間と全く変わらない者もいる。
それでいて人間としての形を捨て去ったかのような異形の者も少なくはない。
全体的な傾向として生きていた頃よりも知能が低下し凶暴性は増すことが多いが、基本的にはそれぞれ思考能力も残っている。
主人となる奴ら[・・]の能力、気分、体調……様々な要因で喰屍鬼[グール]化して後の能力が決まる。
中には単独で人間社会に巧妙に紛れ込み、周囲を騙しつづける程の高度な知能を保つ者もいるという。
その喰屍鬼[グール]たちが全員、死者をしてもなお弱点である項[うなじ]を晒し、膝を屈して額[ぬか]づいている。
──王だ。彼等の主[あるじ]がいる。
瞳を凝らす。
広場の向こうにある一段高い壇上に、それ[・・]はいた。
丁度、喰屍鬼[グール]達に何らかの指示を下した後、今まさにこの場から去る所だったのだろう。
それ[・・]がゆっくりと、背を向ける。
星明りに鈍く輝く長い銀髪が、赤道直下の熱い夜気に靡[なび]くのが見えた。
女であるアインの眼をもってしても、優美に映る美丈夫[びじょうふ]だった。
彼等の外見の美醜が内面の美醜と全く一致しないことは、十分承知している。
それでも、一瞬言葉を失いぼんやり見つめてしまった程。
男の周囲には、付き従うものが三名いた。
そのうちの二人、一組の男女は明らかに従者と思われる姿をしていた。
一人は細身の男。眼鏡をかけ、スーツ姿で無表情に立っている。
もう一人は少女。まだ幼さを残したような、温順[おとなし]そうな少女。
彼女は潤んだ大きな瞳を物憂げに伏せ両手を胸の下で組み、眼鏡の男と対を成すように王の後ろに順[したが]っている。
残る一人は男だった。これは従者とも仲間とも識れない。
両腕を胸元で組み、眼帯をしていないもう片方の目で周囲を睥睨[へいげい]している。
ファーのついた派手なコートを素肌に羽織り、苦虫を噛み潰したような凶貌で、他の三人からは僅かに距離をおいた位置にいる。
何故か、言葉を失い見蕩れていたのは師も同じであるようだった。
呆[ほう]とした表情がハッと我に返る。
「──チィ!」
「なにするんですか先生ッ!?」
物陰から飛び出そうとした師の肩を慌てて抑える。
現実的ではない。正面きって戦うのならばそれ相応の状況というものがある。
今がその機でないことは、アインの目にも明らかだった。
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──過酷さを増す状況。 途中に出遇う奇妙な生物。
やがてアインとリゼイルは、村の奥に位置する崖の寺院の奥底、地下祭壇へとたどり着く。
そこで絶体絶命の危機に陥ったアインの目の前に、一人の男が現れる──
──農林水産省消費・安全局衛生管理課、特殊防疫対策班、
通称“スプークハウス”に所属する巨大な拳銃と歪な日本刀を持ったハンター、エス。
果たして、君は彼らの往く手を導き、吸血鬼を討ち滅ぼすことができるのか。
ダイスを振り、パラグラフ(選択肢)を縦横に移動して読み進むLOSTSCRIPT、デジタライズド・ゲームブック第一弾。
蠅声の王。
──ヒトは誰かの血ではなく、ひとすくいの水で存えるというのに。
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